デジタル教科書の制度、今後どう変わる?【WG審議まとめのポイント】

2025年9月、デジタル教科書推進WG審議まとめが公表された

今年9月に、文科省内の組織「デジタル教科書推進ワーキンググループ」が審議まとめを公表しました*。その副題は「学びの可能性を広げる教科書を」。デジタル教科書を活用すること自体を目的化するのではなく、あくまで児童生徒の学びを充実させるためにどのような教科書がよいのか、という観点で行われてきた議論のまとめです。

2025年2月の中間まとめ公表後の検討内容を反映

この審議まとめは、2月に「中間まとめ」を公表後、パブリックコメントや関係者・児童生徒からの意見を踏まえてさらに検討されてきた内容を取りまとめたものです。次期学習指導要領の基本的な方向性については「教育課程企画特別部会」で議論が行われてきましたが、今後の学びの方向性を踏まえつつ、本ワーキンググループが教科書制度の改善についてまず検討してきた形です。

中間まとめで示された内容や、デジタル教科書の現状については下記の記事で説明しています。デジタル教科書の基本をおさえたい、という方はお読みください。

審議まとめに新たに記載されたのは、検定や採択に関すること

では、今回の審議まとめと中間まとめにはどのような違いがあるのでしょうか。

中間まとめではデジタル教科書の制度的な位置付けが中心でした。最終の審議まとめでは、それに加え検定や採択など、関係制度の方向性について示されています。

先ほどの記事で触れた内容もあわせて、ワーキンググループの審議まとめのポイントを5つに厳選し、ご紹介していきます。

審議まとめのポイント―今後のデジタル教科書の在り方5つ

①デジタル教科書も検定・採択・無償給与等の対象に

基本的方向性として、教科書の形態として紙だけでなくデジタルも認め、現場がどちらを使うか選択できるようにすることを制度上位置付けることとされました。

現在のデジタル教科書は「教科書」と名がつくものの、制度上は教科書とは別物です。それを今後は、デジタル教科書も正式な教科書と定め、紙の教科書と同じように検定を受け、義務教育段階では無償で配布されるようにしようというのです。

ここで大切なことは、「デジタル教科書が正式な教科書になるのだから、全員必ずデジタルを使いましょう」と一律で定めることはしない、という点です。児童生徒の豊かな学びのためには、“関係者が「自分事として」納得感ある形でデジタルの良さを生かした取組ができるようにすることが何よりも大事”なので、様々な教科書の選択肢が用意されることが望ましいとされています。様々な選択肢の中には、「一部が紙、一部がデジタルのハイブリットな形態」も含まれています。

「デジタル教科書推進ワーキンググループ審議まとめ(概要)」P2に記載されている、今後のデジタル教科書の在り方。
文部科学省 デジタル教科書推進ワーキンググループ審議まとめについて 「デジタル教科書推進ワーキンググループ審議まとめ(概要)」P2

②「教科書」は中核的な概念をつかみやすい内容・分量へ

WGの審議の中では、「現場の先生は、教科書に書かれている内容をすべて子どもたちに教えなくてはならないと思っている」「しかし、本来はすべて教える必要はない」という議論がなされていました。受験のことを意識して、網羅的にあらゆる知識を伝授しなければならない! と考える先生も多いでしょうし、中には機械的に「次は教科書○ページ、一文ずつ読んでマーカーで線を引きましょう」と授業を進める先生もいるかもしれません。

ただし、制度上はどうなっているかというと、「授業で使用しなければならない主たる教材」ではあるものの、教えることは「学習指導要領に書かれていること」をおさえていれば十分なのです。教科書には、学習指導要領に記載のない知識や情報も含まれているので、教科書を網羅的に教えるという必要はないわけです。

審議まとめでは、“教科書「を」教える教科書観から、教科書「で」教える教科書観への転換”が求められていると強調されました。

教科書「で」教えるを実現するため、今後の教科書は教科等の中核的な概念等をつかみやすいものにして内容・文章を精選する方向となります。その上で、教科書に加えて適切な教材を学習場面に応じて選択して使用することにより、学びの充実を図っていくことが望ましいとされています。

「デジタル教科書推進ワーキンググループ審議まとめ(概要)」P3に記載されている、関係制度の方向性。
文部科学省 デジタル教科書推進ワーキンググループ審議まとめについて 「デジタル教科書推進ワーキンググループ審議まとめ(概要)」P3

③検定は紙で審査されていた内容をデジタルでも審査

先述の通り、今後はデジタル教科書や、デジタルと紙を組み合わせた形態の教科書も正式な教科書として認められていく方向性です。では、教科書検定はどう変わるのかというと、以下のような方向でまとめられています。

  • 形態に関わらず、文字や図画等による記述内容を審査する(現行制度と同様)
  • デジタルだからこその機能(動的表示や音声読み上げ、拡大・縮小など)は、「教科書のデジタル機能」として区別し、一定の確認にとどめる

具体的な検定方法やデジタル機能の範囲などについては、今後「教科用図書検定調査審議会」において検討されることになります。

④採択事務の負担軽減に向けた工夫

自治体や学校において各教科でどの教科書を使うか決める「採択」は現在、実際に供給されるのと同じ見本(紙の冊子)を使用して行われています。「実際に供給されるのと同じもの」という点は、デジタル教科書が認められても変わりません。本まとめでは、デジタル見本版をクラウドで配信するなど、子どもたちの手に渡る時と同様のもの・方式で見本を示すことが適切とされました。

一方で、採択事務の負担を軽減するために、各教科書がもつデジタル機能を一覧表で示すなどの工夫も期待されています。

⑤デジタル教科書の発行者の仕事はは「配信したら終わり」ではない

この項目では、教科書発行者(出版社)の立場での話をします。

紙の教科書なら、教科書発行者は「教科書を発行して、各学校に供給する」まで発行の責任を負います。でも、デジタル教科書の場合は「各学校に配信する」だけでは不十分です。なぜなら、教科書を使用する期間中ずっと、子どもたちが教科書を使用できる状態を維持しておく必要があるからです。

もう少し詳しく考えると、例えば中学校の「数学」なら授業で主として使うのは1年間ですが、「歴史」や「保健体育」は3年間同じものを使って授業を行います。また、2年生の数学で連立方程式を学習する前に、1年生の教科書を見ながら一次方程式を復習することもあるかもしれません。

これらを踏まえると、義務教育は少なくとも3年間以上、高校段階は4年間以上の期間を使用可能とすることが望ましい、とまとめられています。さらに、それ以降も教科書を手元に残して学習できるよう、ダウンロードや印刷を可能にしておくことも大切です。ネットワーク不調の場合にも授業を止めないための対応も必要です。

アカウント管理やICT環境の整備も重要なポイント

ここまでは、今後制度の見直しが検討されるポイントをご紹介しました。これらは次期学習指導要領の実施に合わせて整備されていくと期待されます。

一方、制度が改訂されるまでの当面の間、どのようにデジタル教科書を推進していくかもWGで議論されました。アカウント管理等の負担軽減や、校内のネットワーク環境の整備もデジタル教科書推進のために必要な取り組みです。

ハイパーブレインでは、年度更新に伴うアカウントの処理や学校様に必要なネットワーク環境の整備をはじめ、先生方・児童生徒のみなさんがデジタル教科書をより便利に使えるようにするためのご支援を承っています。自治体のご担当者様と一緒に最適なご支援内容を見極め、サポートさせていただきます。現在お困りのことがございましたら、まずはお気軽にお話だけでもお伺いさせてください。自治体の「育成されたい子どもたちの姿」をお伺いしつつ、最適なご支援をさせていただきます。

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参考文献

1:デジタル教科書推進ワーキンググループ審議まとめについて

投稿者プロフィール

深井明理
深井明理
株式会社ハイパーブレイン 総務部広報課 主任
教育情報化コーディネータ(ITCE)3級
元中学校理科教員。正社員として入社後、パートへの勤務変更、海外からのテレワーク、産休・育休取得を経て2024年にフルタイム正社員として復帰しました