教育DXは「導入」ではなく「設計」である ― 半年間のHBI通信を通して見えてきたこと

はじめに

教育DXとは、システム導入ではありません。 「詳しい人が頑張ることで回る状態」から脱却することです。

2026年2月から、HBI通信では「教育DX」をテーマに連載を続けてきました。

  • 第2期GIGAをどう「進化」につなげるか
  • 校務DXは誰が設計するのか
  • 担当が替わっても止まらない仕組みとは何か
  • ICT支援員の役割をどう整理するか
  • 先進事例をどう判断材料として使うか

どれも別々のテーマに見えますが、実は、根底には共通する思いがあります。ハイパーブレインで、現場の近くで先生方のご支援を実施し、学習基盤を支える一因としてずっと考えていることです。

それが、冒頭で申し上げた

「詳しい人が頑張ることで回る状態」からどう脱却するのか。

という問いです。

DXは「システム導入」では終わらない

特にGIGAスクール構想以降、多くの自治体で「環境整備」は急速に進みました。
端末が入り、ネットワークが整備され、アカウント管理も始まりました。しばらく運用してみた結果、ほとんどの自治体で

  1. システムは増えた
  2. しかし運用設計が追いついていない

状態になっています。その結果、例えば、

  • システム間連携の調整
  • 学校ごとに異なる運用への対応
  • 「誰が担当するのか」の整理

といった、「人と業務をつなぐ仕事」 が急増しています。

つまり今、全国で起きているのは、

「導入したのに苦しい」

という状態なのだと思います。

なぜ苦しくなるのか

この状態を見ると、「まだシステムが足りないのではないか」と思われることがあります。

もちろん、環境整備は今後も必要です。
ただ、現場で起きている苦しさの原因は、システム不足だけではありません。

むしろ、

「設計不足」

によって起きている部分が非常に大きいように感じます。

例えば、

  • ICT担当者に業務が集中する
  • 学校ごとに独自運用が増える
  • 判断基準が共有されていない
  • 「誰が決めるのか」が曖昧

という課題は、

  • 誰が決めるか
  • どこまで学校裁量か
  • 問い合わせをどういうフローで対応するか
  • 例外処理を誰が持つか
  • 担当交代時にどう引き継ぐか

が決まっていれば、解決できることが増えます。これらを決めないまま従来業務の上に新システムを積み重ねると、 必ず「例外を調整する仕事」が増えます。

ルールが整理されていない組織では、最終的に「判断できる人」が運用を支えることになります。

すると、

「詳しい人に聞く」

が最適解になり、属人化が進みます。

教育DXで本当に変えるべきもの

教育DXで本当に変えるべきなのは、単なるツールではありません。

変える必要があるのは、次の4つです。

① 業務の流れ

「今までの仕事をそのままデジタル化する」のではなく、

  • どこで入力し
  • どこで確認し
  • 誰が判断するのか

を整理し直す必要があります。それに伴って、「今までの仕事のやり方を変える」ことがおそらく必要になります。

② 意思決定

現場任せでもなく、トップダウンだけでもなく、

  • どこまでを学校で決め
  • どこからを教育委員会が整理するのか

を明確にする必要があります。ここが曖昧だと、例外処理が発生した場合に判断がぶれ、まわりまわって現場が疲弊します。

③ 役割分担

現場で何か困ったことが起こったら、「とりあえずなんでもICT支援員に聞く・任せる」というような運用になっていませんか?

良い役割分担とは

  • 学校現場が判断すること
  • ICT支援員が支援すること
  • ヘルプデスクが切り分けること
  • 教育委員会が整理すること
  • ベンダーが対応すること

が整理されている状態です。

重要なのは、

  • 誰が何を担うのか
  • どこまで責任を持つのか
  • どう連携するのか

が共有され、更新され続けることです。

④ 継続可能性

担当者が替わる。
システムが更新される。
学校の状況も変わる。

そうした変化の中でも、

  • 回り続けるか
  • 続けられるか
  • 属人化しないか

を考えておく必要があります。

良い設計とは「頑張らなくても回る」状態にすること

良い設計とは、

「誰かが頑張り続けなくても回る状態」

を作ることです。

「熱意がある人」 を前提にした運用は、長期的には壊れます。

ですので、

  • やらないことを決める
  • 学校裁量を限定する(この役職だけれど、この学校では特別にこの人だけこの権限、というものを極力減らす)
  • 例外対応を減らす(この人だけは特別なので、を極力減らす)
  • 判断基準を共有する

ことをお勧めします。

DXでは、「何を導入するか」が注目されがちですが、実際には、

「どこまでをやらないか」

を決められてこそ、現場の負荷の軽減につながります。しかし実際には、「例外だから」「この学校だけだから」「この先生だけだから」が積み重なり、
運用は複雑化していきます。

やらないことを決められるのは一般的に教育委員会だと考えます。

だからこそ、

  • 本当に必要なことは何か
  • 今やるべきことは何か
  • 後回しにするものは何か

を整理する必要があります。そしてその整理が、自治体内で共有されていれば現場の戸惑いも最小限に抑えられるのではないでしょうか。

先進事例は「コピー」より「参考文献」

最近は、多くの先進事例が共有されるようになりました。ただ、それをそのまま真似してもうまくいくとは限りません。

なぜなら、

  • 人数
  • 支援体制
  • 学校文化
  • 予算
  • 権限構造

が自治体ごとに違うからです。表に見えているのは「結果」であって、その背景にある条件までは見えません。

だから必要なのは、

「正解を探すこと」ではなく、
「判断すること」

です。

その事例は、

  • 自分たちの課題と一致しているのか
  • どんな条件で成立しているのか
  • 自分たちの自治体に置き換えたとき、誰に負荷がかかるのか

を整理しながら見る必要があります。

HBI通信が目指したいこと

HBI通信は、2016年からほぼ毎週書き続けてきました。(最近は諸事情で2週間に1回というペースになりましたが)

そしてこれからは、

「難しい政策や資料を、現場の言葉で整理する」

だけではなく、

  • 現場で再現可能か
  • 判断材料になるか
  • 継続できるか

という視点で、教育DXを整理していきたいと思っています。「すごい事例」を紹介するだけではなく、

  • なぜそれが成立したのか
  • どこがポイントなのか
  • 自治体で考えるなら何を見るべきか

まで含めて、一緒に考えるブログにしたいのです。

おわりに

教育DXは、システム導入の話ではありません。

人が替わっても。
環境が変わっても。
技術が変わっても。

それでも回り続ける仕組みをどう設計するか。その問いに向き合うことなのだと思います。

典型的な「属人化」の流れは

新しいシステムを導入

例外対応が発生

ルール未整理

詳しい人が対応

その人に問い合わせ集中

学校ごとの差が拡大

担当交代で止まる

です。これを仕組みで断ち切れるよう考え続けましょう。

完璧な正解はありません。今日正解だと思っても、明日には変わっているかもしれません。だからこそ必要なのは、

「考え続けるための判断軸」

です。

HBI通信は、これからも、

現場と制度をつなぎ、
教育と技術をつなぎ、
支える人を支えるブログとして、

教育DXを整理していきます。

教育DXとは、「新しいシステムを入れること」ではなく、

「誰かが頑張り続けなくても回る状態”」を作ること

なのだと思います。

🌱 読者への問い

あなたの自治体では、次の状態になっていませんか?

  • 「○○先生しか分からない」が存在する
  • 学校ごとに運用が違う
  • ICT支援員が実質なんでも屋になっている
  • 問い合わせ先が曖昧な部分が残っている
  • 例外対応が積み上がっている
  • 担当交代で止まりそうな業務がある

1つでも当てはまるなら、必要なのは「追加導入」ではなく「設計の見直し」かもしれません。

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投稿者プロフィール

大江 香織
大江 香織
株式会社ハイパーブレインの常務取締役です。
教育情報化コーディネータ1級
愛知教育大学非常勤講師です。専門はICT支援員の研究です。