拡大する「学校の役割」に増す責務、教育の質を上げる支援をしたい

教育の現場を助け、学習の質を上げる「校務支援システム」活用の課題

近年の「学習指導要領」において、学校は社会につながる学習を重視するという理念が明示されています。子どもたちに今後の世界を生きる力を得てもらうために公教育がすべきアプローチは多く、学校が背負う責務は増しています。
そのような中で深刻化するのが、教員の方の負担です。文部科学省の教員勤務実態調査 によれば、教員の学校勤務時間は平成28年度の時点で小学校が57時間25分(10年前から4時間9分増)、中学校が63時間18分(10年前から5時間12分増)でした。これはコロナ禍以前の、しかも仕事の「持ち帰り」を除いた平均時間なので、実態はさらに過酷なはずです。

教員勤務実態調査:https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/uneishien/1297093.htm

比較文言引用:統合型校務支援システム導入の手引きP1 https://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/micro_detail/__icsFiles/afieldfile/2018/08/30/1408684-001.pdf

この状況を改善するために「校務支援システム」の導入が進んでいます。学校事務のシステム化で、今までエクセルの関数やマクロを複雑に組み合わせて作成してきた通知表や手書きを余儀なくされていた指導要録、週案の作成などがかなり楽になるはずです。さらに今後は学習系業務との統合やGIGAスクール構想とも連携した幅広いデータ活用で教育の質を高められると期待されています。
しかし校務支援システムの運用にはさまざまな課題があり、活用しきれている例は多くありません。文科省の校務支援システム導入状況調査 によれば、令和3年5月時点で80.4%の学校が校務支援システムを導入している一方でシステムをインターネットに接続している割合は48.7%です。また、システムをインターネットから独立させている学校の79.9%が「インターネットへの接続はセキュリティーポリシー上不可能」と回答しました。さらに、システム内で校務と学習のデータを連携させている割合は全体の4.2%です。

比較文言引用:GIGAスクール構想に関する各種調査の結果についてP23 https://www.mext.go.jp/content/20210827-mxt_jogai01-000017383_10.pdf

つまり「児童生徒の名簿と成績情報、出欠席情報を一部連携して重複作業をなくすということはどの校務支援システムも実現が可能となってはいますが、そこに、各家庭で入力した緊急連絡先などの情報をクラウド経由で取り込んで名簿に反映する」といった作業の自動化は、ほとんどできていないことが分かります。年度当初に大量に書く書類も、保護者としては一度クラウド上で入力するから、それをそのまま使いまわしてほしいという意見を聞きます。ですが、物理的にその連携が取れないのが現状と言えるでしょう。


教育現場のICT活用のために必要な専門性がある

ICT機器や校務支援システムの活用が十分に進まない背景には、深刻な「専門家不足」の問題があります。学校を一つの組織として見れば先生方は教育のプロ集団であって、企業の情報システム部門にあたるICTのプロは別に必要なのです。しかし実情は、各教員が苦手なICTにどうにか慣れようとしたり、学校や教育委員会の比較的得意な誰かが一手に引き受けたり、ICT支援員の巡回を待ったり、といった状況が続いています。
ICT機器や校務支援システムの活用は、ただのICT知識だけではできません。学校業務に精通し、文教系の業界知識を持った上で、校務の円滑化に必要なICT施策を提案、構築するサポーターが必要です。
現場にとって必要な支援を提供して現場の負荷を下げ、先生方が授業に集中できるように導くのが当社のミッションです。以下は、ある自治体をどのようにご支援しているかについて掘り下げています。校務支援の専門家である話者の、「課題」の掘り下げをご確認ください。

「デバイス保守」「アカウント管理」「インフラ対応」の課題は自治体共通

多くの学校や自治体が、共通の課題を抱えています。校務支援に関しても多くの課題がありますが、ご支援を開始した直後に必要だった課題が3点あります。まず「デバイス保守」の問題です。学校のPCルームにある端末や教員のPC、GIGAスクール構想によって配布された貸与端末を管理・保守する業務があります。台数やリスクが非常に多くなり、例えば故障や不具合があれば修理が必要になりますし、子どもが持ち帰った端末が校外で盗難にあったら、届け出や新しい端末の準備をしなければなりません。

次に「アカウント管理」です。4月は新年度の開始と同時に教員が一斉に異動するため、アカウント更新や管理の業務が大量に発生します。異動する教員が前の学校のシステムに入れないように、異動先のシステムに入れるようにする必要があるためです。私の担当する自治体では、それらを市教委の担当者が実施していましたが負荷が大きく、非常に大変な状況でした。
そして「インフラ対応」です。先述した自治体では約20000台のiPadを導入しましたが、それを運用できるネットワーク環境も整備する必要がありました。従来、学校からのアクセスは全て市教委のセンターサーバーを経由し、安全性を確保した上でインターネットに接続されていました。安全性を優先するため接続スピードが犠牲になっており、児童生徒が各個人の学習用端末を接続するのに耐えられる環境ではありませんでした。

まずは「すぐに必要な支援」から 徐々に拡大して利便性を提供

上記の課題は全て重要なものですが、私がお手伝いしたケースで最も切羽詰まって必要だったのは「アカウント管理」の支援でした。市教委の担当者とコミュニケーションを取りながらすぐに必要な支援を洗い出し、アカウントの新規作成や異動処理、必要な権限管理のお手伝いを引き受けました。

続いて「デバイス保守」に支援を広げました。GIGAスクール構想の前倒しに伴って、自治体は急いでデバイスを調達する必要がありました。しかも、文科省の構想と市教委のポリシー、近隣自治体の動向などを見ながら検討しなければなりません。それらを鑑み、自治体のニーズをヒアリングしながら、端末の調達要項を定義するお手伝いをしました。
デバイスの調達と同時に進めなければならないのが、インフラ環境の整備です。先に述べた通り、既存の環境では市教委のセンターサーバーへの負荷が大きく、通信品質も良くはありません。そこでLBO(Local Break Out)を提案し、一部のアプリは市教委へのアクセスなしで接続できるようにしました。

システムで「本当にやりたいこと」を実現するために

ここまで述べた3つは、現場の「困りごと」がはっきりしている中で提供した支援です。これらを円滑化したことで、教員の方をICTの管理や保守、問題が起きたときの現象の切り分けといった「企業であれば情報システム部門の専任者が担当すべき業務」から開放できました。また、GIGAスクール構想が定着すれば、高学年の児童生徒が卒業する際に端末を回収し、文教向けのキッティングをした上で新入学生に配布するといった業務も必要になるでしょう。それらのお手伝いもしていくつもりです。

さらに今後は、校務支援システムの活用を促したいと考えています。たとえば学校事務と教育学習系のデータを結びつけ、授業で扱うデータや子どもの教材と連携させれば、もっと授業の準備が円滑にできるようになるでしょう。また文科省は、将来的には文教領域のシステムのフルクラウド化を目指す方針も打ち出しています。フルクラウドの世界では、従来とは違ったセキュリティ対策が必要になります。ゼロトラストセキュリティの採用や海外ベンダーの提供する文教向けソリューションの導入にあたっては、コロナ禍で発生した課題をトライアンドエラーで解決してきたノウハウが生きるでしょう。

新しい技術を有効に取り入れ、授業を豊かに、学習の質を高くできるようになると考えています。それらも現状の挑戦があるからこそ取り組めるものです。これからも、自治体や学校の課題感に寄り添い、教育現場でICTが生きるようなお手伝いをしたいと考えています。

話者:澁谷氏(初中等教育支援部 次長)
取材:StudioKOKS
(2022年春インタビュー 組織名・肩書きは当時のもの)

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