ICT支援員の待遇改善と質の向上を 課題の背景と解決法

要望は「大企業のCIO並み」、予算は「最低賃金」、ICT支援員の根深い課題

ICT支援員は日本の学校教育におけるICT活用の推進に伴って注目されるようになりました。公共の教育機関は民間の学習塾のようにビジネスの中でデジタル技術を取り入れる機会がなかったため、プログラミング教育やGIGAスクール構想への対応は「現場の教員を支援するICTのプロ」が必要だとされたためです。

ICT支援員が学校で求められる「支援」は多種多様です。学校教育法施行規則の一部を改正する省令 (第六十五条の五、施行予定)や文部科学省、民間規格(JSA-S1010)が定義する業務内容は非常に広く、自治体が要望する支援の全てをカバーしようとすると、大企業のCIO並みの人材が必要になります。

神奈川県横須賀市ICT支援員配置業務委託事業者選定プロポーザル仕様書P4-5
図1 神奈川県横須賀市ICT支援員配置業務委託事業者選定プロポーザル仕様書P4-5
 
神奈川県横須賀市ICT支援員配置業務委託事業者選定プロポーザル仕様書P6-7
図2 神奈川県横須賀市ICT支援員配置業務委託事業者選定プロポーザル仕様書P6-7
図1・2ともhttps://www.city.yokosuka.kanagawa.jp/8350/ictpropo.html (2021年2月7日閲覧) より引用

(図版)例:神奈川県横須賀市が指定するICT支援員の業務内容。機材の管理や端末への導入アプリの選定、オンライン授業支援、アカウント管理、操作マニュアル作成、校内研修の実施、障害対応まで幅広い

しかし公共事業なので予算は「なるべく安い賃金で、1人が複数校を掛け持ちする」ことを想定しており、学校の現場は「ITに関する何でも屋さん」という認識でいます。しかも多くの場合「年度内あるいは1年限りの有期雇用契約」として一般競争入札をするため、人材の募集期間は予算化の決定後となり、極端な例では「3月の下旬、1週間以内に人材を見つける」というケースもあります。

要望は高いのに賃金は低く、募集期間はとても短い。それでせっかく来てくれたICT支援員は、低い時給と不安定な雇用の中で「何でも屋さん」として大量の要望を受け付けることになります。

専門性が理解されず、評価されない中で大量の依頼をこなす状況では、スキルを持つ人を引き止められません。結果的に優秀な人材が現場を離れてしまい、学校に本当に必要な支援が提供できなくなり、費用対効果を明示できないためさらにICT支援員に関わる予算が削減されるような悪循環が起きています。

現状、ICT支援員認定試験合格者は「全国に3000人程度」です。平均すると、10校あたり1人に過ぎません。

「なにが必要なのか」を定義して「何ができるのか」を証明する

これらの問題の背景には「予算も知識もスキルも人材も、何もかもが足りない」という、学校や自治体の切羽詰まった事情があります。学校の現場には「助けてほしい困りごと」と「やってほしい業務」があります。しかし、そのために何が必要なのかは分からないため、ICT支援員に必要な知識を指定しきれていません。

それらを定義し、ICT支援員の能力を明確化するために提供を始めたのが、当社のeラーニングシステム「ICT支援員養成講座」です。

ICT支援員の能力を明確化

当教材の目的は「教育の現場で、ICT支援員が求められる必要最低限の知識を習得していることの証明」です。永野和男先生(聖心女子大学名誉教授 JSET名誉会員・元会長)監修の元、「ICT支援員認定試験」を提供する特定非営利活動法人 情報ネットワーク教育活用研究協議会(JNK4)と協力して開発したもので、「Aコース」と「Bコース」の2コースを受講し、試験に合格することで、教育現場の課題を理解して支援できる技術を持っていることを証明できます。

eラーニング画面イメージ

具体的にはAコースの修了で、独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)の定義する「レベル1」相当、概ねIPAの「ITパスポート試験に十分挑戦できる程度」の知識を得られます。Bコースでは教員免許を持たずに学校で働く支援員に必要な汎用知識や文教系の公共事業に関するドメイン知識、それらとICT知識を結びつけるスキルを得られます。

(図版)Bコースで修了する項目。一般知識や公共事業に関する知識など多岐にわたる。

Bコースを受講して最終確認試験に合格することで、ICT支援員認定試験の定義する「A領域」相当の知識の学習をしたと見なせます。ただし、あくまで目的は「学校教育+ICT」を結びつける能力の強化です。そのため「認定試験対策用の教材」にはしていません。

必要なのは「課題を理解して解決する能力」

ICT支援員に必要な能力は、ただ「正解を丸覚えする」だけの学習では身につけられません。支援の現場で聞かれる声は試験問題とは違うためです。現場の声から課題の意図を理解し、必要な技術的支援を提供できるようになるため、教材の試験でも明確な「答え」は提示しません。

もちろん、課題に対する「正解・不正解」はあります。しかし「ここが間違っていて、正解はこうです」と教えないため、合格したい受講者は問題文をしっかりと読み込んで問題の本質を理解する必要があります。

さらに現場では、教員や学校関係者と適切に関わるコミュニケーション能力も必要です。単純な正解がない現場で要望を受け、プロとして職務を遂行することで、本当に求められている「学校運営のデジタル化」をサポートするのがICT支援員のミッションです。そのために必要な知識や技能、マインドセットを教材に詰め込みました。

また、技術は日々進歩しており、現場に求められる支援の種類も高度化しています。それを受けて教材のアップデートも進めます。2023年4月にバージョンアップしました。最新技術に関する知識の追加や教材の動画化も視野に入れています。

ICT支援員の収入を「少なくとも2倍に」

2020年はコロナ禍によってGIGAスクール構想が前倒しで実施され、大混乱が起きました。児童生徒全員分の端末の設定、無線LANインフラを持たない家庭にモバイルルーターを貸与するといった関連業務に追われた現場は多かったのではないでしょうか。政府は学習記録をデータとして活用する構想も打ち出していますが、現状を知る人ほど「とても無理だ」と感じていらっしゃるのではないかと思います。

当教材は、一部の自治体で調達支援の要件に入っています。ICT支援員のコア技術を証明するものとして今後も普及させ、専門人材としての価値を上げ、現場の待遇を改善すれば、より優秀な人材が本来の力を発揮して、学校の運営を支援できるようになるでしょう。

そのような環境の整備も合わせて進め、ICT支援員が高度な技術を持つ専門人材として学校に常駐できること、待遇の改善として、人材の収入が少なくとも「現在の2倍」になることを目指します。

話者:大江香織氏(JNK4認定 教育情報化コーディネータ1級)

 株式会社ハイパーブレイン 取締役教育DX推進部長
 愛知教育大学 情報教育講座 非常勤講師
 教育情報化コーディネータ1級  
■専攻・専門  教育工学、ICT支援員

2018年女性で初めて教育情報化コーディネータ1級取得
2020年愛知教育大学教育学研究科教育発達科学情報教育専攻 修了
2021年から愛知教育大学非常勤講師
2021年4月、聖心女子大学名誉教授永野先生とご一緒にICT支援員養成講座(eラーニング)開発・リリース

株式会社ハイパーブレイン取締役教育DX推進部長 大江

取材:StudioKOKS
(2022年春インタビュー 組織名・肩書きは当時のもの)
(2023年度よりICT支援員講座はリニューアルし、一部変更があります)

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