クラウド環境整備の手順について(後編)

前回では4つのステップの内、調達段階までをご説明させていただきました。今回は最後のステップである運用段階についてご説明させていただきます。

総務省クラウド調達ガイドブックでは、運用段階は以下の4つステップに分けられています。

運用段階4つのステップ
<参考資料 総務省 教育クラウド調達ガイドブック 本編 P15
https://www.soumu.go.jp/main_content/000700786.pdf (最終閲覧日 2022年2月10日)>

以下に(ア)~(エ)までのステップを一つずつご説明していきます。

(ア)運用体制の確立

まずは、学校の教育現場でICTを活用する体制を確立します。各学校の校長先生がCIO(Chief information officer、最高情報責任者)となり、学校全体の教育ICT利活用を取り仕切ることになります。*1

校長先生は学校全体を俯瞰して見ることのできるお立場ですので、運用体制の確立にあたってはICTに詳しい先生などに丸投げなどをせず、積極的な話し合いや調整を行い、実際にICT機器を利用する先生方のスキルを考慮した上で、運用体制を確立する必要があります。

特に、ICTの利活用が苦手な先生が困ったときに気軽に質問することのできるような人材を、教育委員会や近隣のネットワークで見つけておくと、現場の先生が助かります。

学校へICTが導入され、校務にもICTを使用するようになる過渡期においては、ICTの苦手な先生に特に大きな負担がかかることが予想されます。そういった先生に対しては、手厚いケアが必要です。

校務系クラウドを調達してICT機器を用いて校務を行うようになった結果、校務により多くの時間がかかるようになり、「ICTなんて導入しても効率が悪くなるだけじゃないか!」とならないように注意する必要があります。

また、教育系クラウドの利用にあたっては、それまで発生しなかったID、PWの厳格な管理や、クラウドの仕様上の注意など、新たに覚えることがたくさんあって混乱することがあるかと思います。

そのため、授業でICTを活用するための研修等では、機器の操作方法だけではなく、どのような場面でどの機器を用いれば良いか、導入したサービスの内どの機能が学習上のどこで役に立つのかを先生方へ具体的にご説明するようにすることが大切です。*2

(イ)運用ルールの確立

運用ルールは以下の(A)~(C)からなります。*3

(A)クラウドサービス等アプリケーションの利用マニュアル整備
(B)端末機器管理ルールの確立
(C)情報セキュリティ実施手順の整備等、運用に当たって必要なルールを整備


ひとつずつ見ていきましょう。

(A)クラウドサービス等アプリケーションの利用マニュアル整備

マニュアルの整備は、校務系クラウドと学習系クラウドそれぞれで行います。

まず、校務系クラウドのマニュアル整備にあたっては、校務の全体の流れや、帳票の変更、操作法についての解説、困った際の相談フロー、故障時の対応フローなど、これまでの校務と変わる部分を全面的にサポートするマニュアルが必要です。*4そのため、困った際の相談フローとしてのICT支援員によるバックアップ体制や、コールセンター等によるサポートもマニュアルに含める必要があります。

次に、学習系クラウドのマニュアル整備です。学習系クラウドを実際に使用して発生するトラブルには、操作ミスや、多数の情報端末の一斉アクセスのために表示が遅くなったなどの、障害が原因でないものもあります。

操作ミスのようなトラブルに対しては、対応手順を記載したマニュアルを整備し、それに基づいて先生ご自身で対処できるようになると、円滑に授業を継続することができるようになります。*2マニュアルは一度作ったらそれきりの物ではなく、実際の運用を通して起こった事例を積み上げていき、対応事例を増やしていくことでより充実したものになります。*2

一方で、 多数の情報端末の一斉アクセスのために表示が遅くなった場合等については、ネットワーク設計の見直し等といった根本的な対応策が必要になる場合もあります。そのような事態が起こると大変な手間と費用が発生するため、計画段階できちんとヒアリング、調査を行った上で調達を行う必要があります。

(B)端末機器管理ルールの確立

校内に導入された端末を管理するために、以下のようなルールの整備が必要になります。*2

・端末機器故障時の連絡フロー、管理責任者の指定
・端末機器の保管・充電場所の確保
・端末機器の教室搬入
・児童生徒向け端末機器の操作マニュアル整備
・端末機器 OS、ウイルス対策ソフトのアップデート、バージョン管理
・共用端末機器の使用予約管理
・端末機器へのソフトウェアの導入方法の確立
・端末機器 OS やウイルス対策ソフトの定期更新の実施 *3
・私物端末及び外部記録媒体の業務利用禁止 *3

誰が、どこで、どの端末を使っているのか、端末をどのように使うのが適切か、端末で何を行ってはいけないのか、端末が故障したときにはどうしたら良いか等について、利用者がわかりやすいようルールを整備します。

(C)情報セキュリティ実施手順の整備

導入されたクラウドサービスや端末を適切に運用するためには、情報セキュリティ対策を実施する必要があります。そのため、教育委員会が策定する情報セキュリティポリシーをベースに、学校での情報セキュリティの守り方をマニュアル化した実施手順を、以下の観点から策定します。*4

・情報資産台帳の整備(重要性分類、アクセス権限、保存期限、情報管理担当者、保管場所)
・教職員の遵守事項(取り扱いにおける秘匿、外部持ち出しルール遵守、ID/ パスワードの秘匿等)
・セキュリティ事故の疑いがある場合の連絡フロー
・セキュリティ事故発生時の対応フロー

これらの点につきましては、以前の記事「学校の情報資産分類について」(https://giga.h-b.co.jp/2021/07/13/学校の情報資産分類について/)「情報セキュリティのための組織体制」(https://giga.h-b.co.jp/2021/07/21/030721/)でご説明しておりますので、ご参考として頂けますと幸いです。

情報セキュリティ上、注意が必要なのが「校務用端末機器への無断でのソフトウェアのインストール」や「私物端末及び外部記録媒体の業務利用」のような、「こっそりと簡単に実行ができてしまうこと」です。機密情報を扱う端末でそういったことが行われるようになると、重要なセキュリティインシデントの可能性が増加します。

そのため、ソフトウェアをインストールして良いのかわからない場合や、情報をどうしても持ち出したい場合に気軽に聞くことや調べることのできる環境の整備が必要となります。また、わからないことがあった場合に、簡単に調べられる仕組みをしっかりと整備しておくことで、校務がスムーズになるかと思います。

(ウ)外部からの支援検討

上記のように、ICTの利活用について気軽にご質問いただけるような環境や、コールセンターへの問い合わせで機器の不具合を解消できる環境を用意することで、先生方のICTの利活用をより一層進められるようになると考えられます。

特に、先生方がICTについて聞くことのできる人としてICT支援員が挙げられます。特別な資格がなくてもICT支援員として働くことはできますが、一つの目安として資格の有無が挙げられます。以下に挙げるような資格を持っている場合には学校のことや教育の情報化について一定の理解があると考えられます。

・教育情報化コーディネータ検定試験(ITCE)
・ICT支援員認定試験

オフィスソフトの使い方については

・MOS(Microsoft Office Specialist)

を持っていると、ある程度の理解があると考えられます。

資格を持っているICT支援員が訪問したときに、より積極的に話しかけ、様々な場面で助言を求めることで、先生方の活用につなげることができます。

(エ)効果測定

ICTを導入、運用したら、どのくらいの効果があったのかを測定します。

学習系システム、ICT機器の効果測定では、授業・学習で実際にICT機器をどのくらい活用されたかを調べ、良い結果が出たケース(ICT機器が授業・学習で効果的だった場面)を蓄積して共有できるようにします。

活用していない場合には、利用しないほうが良いのか、活用できないのかを調べます。*5利用しない理由を明らかにすることでICT活用上での問題点を洗い出し、改善することで、より効果的なICT活用を考えられるようになります。

校務系システムの効果測定では、どの程度の時間をシステムの導入で短縮できたか、どの程度負担が軽くなったかの効果を測定します。*6
(校務支援システムの導入においては、これまでの校務処理と変わるところがあるため、先生方や職員の方が新しい校務運用にある程度慣れる、導入 2 年目以降に効果検証を行うことが現実的とされています。*6

これらの効果測定を行った結果、自治体内だけではなかなか解決が難しい問題に直面することがあるのではないかと思います。そのような場合には、これまで学校のご支援を行ってきた業者を頼るということも、一つの選択肢としてお考えいただければと思います。

ハイパーブレインには学校現場を長年ご支援してきたノウハウがございます。もしICTの導入で思ったように効果が上がらない、うまく活用するための方法を見出すことができないような場合には、外部の業者へご相談することも視野に入れていただければと思います。

また、「文部科学省 ICT活用教育アドバイザー事業ポータルサイト」(https://ictadvisor.mext.go.jp/partners/)に登録されている事業者では、学校のICT化をサポートしておりますので、地域に応じた事業者へご相談いただければと思います。

ここまでお読みくださいまして、ありがとうございました。今回は、クラウド調達の4つのステップの内、運用段階をご説明させていただきました。

学校でクラウドサービスを運用する一助となることができれば幸いです。

<引用>

*1 文部科学省 「教育の情報化に関する手引(令和元年12月)」P245 (最終閲覧日2022年2月10日)

*2 総務省 教育クラウド調達ガイドブック 本編 P31 (最終閲覧日2022年2月10日)

*3 総務省 教育クラウド調達ガイドブック 本編 P15 (最終閲覧日2022年2月10日)

*4 総務省 教育クラウド調達ガイドブック 本編 P52 (最終閲覧日2022年2月10日)

*5 総務省 教育クラウド調達ガイドブック 参考編 P53 (最終閲覧日2022年2月10日)

*6 総務省 教育クラウド調達ガイドブック 参考編 P54 (最終閲覧日2022年2月10日)