教育振興基本計画7
皆さんこんにちは。
令和5年6月、新たな教育振興基本計画が閣議決定されました。
そもそも教育振興基本計画とは、「教育基本法(平成18年法律第120号)に示された理念の実現と、我が国の教育振興に関する施策の総合的・計画的な推進を図るため、同法第17条第1項に基づき政府として策定する計画です。」と説明にある通り、政府が教育をどのようにしていくか、という施策のもとになるものです。
特に行政職の皆様はしっかりコンセプトや計画を確認して、ご自分の自治体の施策にご活用いただければと思います。なぜなら、予算が通りやすいからです。自治体独自の施策を実施しようとしたときに、「教育振興基本計画のこの部分に則っています」という説明は大変有効ではないでしょうか。
本文のボリュームも多く、新しい言葉も次々出てきますが、ゆっくりご一緒に確認していきましょう。
Ⅱ.今後の教育政策に関する基本的な方針
(5つの基本的な方針)
基本的な方針が5つ挙げられています。それぞれ詳しく読んでいきますが、最初に全体を確認しておきましょう。
- グローバル化する社会の持続的な発展に向けて学び続ける人材の育成
- 誰一人取り残されず、全ての人の可能性を引き出す共生社会の実現に向けた教育の推進
- 地域や家庭で共に学び支え合う社会の実現に向けた教育の推進
- 教育デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進
- 計画の実効性確保のための基盤整備・対話
それぞれの方針にが詳しく説明されています。1つずつ見ていきましょう。
グローバル化する社会の持続的な発展に向けて学び続ける人材の育成
(多様な才能・能力を生かす教育)
「我が国においては、これまで学校教育において一人一人の子供たちの多様な才能をどのように伸長していくのかという議論が十分行われてこなかった。」と計画には述べられています。学習統率という言葉を聞いたことがある方もいらっしゃるのではないでしょうか。先生が「いい」というまで手を机の上に出してはいけません、先生が教科書を開きなさい、と言ったら全員開く、というような、1教室内全員同じことをする、同一年齢で同一内容という教育ではなくしていくということですね。
「同質ではなく異質なものとの融合こそがイノベーションを生み出す」と記載されているのはとても良いことです。私は18歳で上京した時に、いかに自分が凝り固まった同一価値観の世界で生きてきたかということを思い知りました。そして、違う価値観の人と話したり行動したりすることがいかに必要なことか、心から実感しました。
何もかもすべて突然多様性、というわけにはいかないと思いますが、教壇に立つ先生方の心の中に、少しでもこのことがあってくれるといいなと思います。
(地域・産学官連携、職業教育)
地域が持続的に発展するためには、という切り口で記載がされています。持続的な発展を是とする前提ですね。そのために重要なのは、「学校を地域や社会に対して開いていくこと」とあります。痛ましい事件が発生したため、学校は校門を閉ざし、厳重に出入りを管理するようになりました。命には代えられませんから、それは必要な措置です。安全を確保しつつ、地域に開かれた学校にしていくためのいろいろな工夫が必要ですね。
職業教育や起業家教育という文言も書かれていますが、それらを学校が全て負担するのではなく、地域と産学官の連携が重要だ、とあります。
連携をするにも最初はとても時間がかかります。ステークホルダーが増えれば増える程、調整ごとに時間を取られてしまいます。それを乗り越えて実施するには、どういう意図で、どういう子どもたちを育成したいか、よく話し合って連携していく必要があると思います。その時間が現場の先生にないのがとても辛いところですね。人的余裕、時間的余裕、心の余裕が必要なのはどのような職場でも共通です。
(マルチステージの人生を生涯にわたって学び続ける学習者の育成)
マルチステージの人生、というのは様々な人生のステージというような意味ですね。社会人の学び直し(リカレント)は最近よく取り上げられますが、第二の人生での学びや「人生を豊かにするための学び」や「他者との学びあい」を身近なものとすることが重要、とあります。
人間は、学ぶこと自体を喜びとできる動物だと思います。強制されて学んだり、意味も分からず学ばされたりすればそれはとても嫌なことですが、自分の好きなこと、興味のあることを学ぶ、学びたいことを学びたいように学びたい時に学ぶ、ということができれば、とても充実した気持ちになれます。
実際そうするためには、「持続的な発展」により、人に心の余裕、金銭的な余裕が必要です。学ぶ意欲、学ぶ環境を作るためには、そういうことができるんだ、ということを多くの人が知る必要もありますね。
それを、人が頑張ってどうにかする、ということ以外にも「ICT の活用などによる柔軟な学習機会の一層の充実」などが挙げられています。学校の先生は、「自分でやったら早い」「それくらいなら自分でやる」ということをぱっと腰を上げてさっと手でやることが非常に多く、それはとても素晴らしい姿勢だな、ということを感じます。ただ、その「ちょっとずつやる」仕事が積み重なって今先生方がとても大変になっているので、そこを、我々はご支援して、本来の先生方の仕事、授業の充実に使っていただけるようにしていきます。
(リカレント教育を通じた高度専門人材育成)
最初に「我が国は諸外国と比べて労働生産性の低さが課題」と述べられています。課題を認識しており、さらに「その一因として、大人になってから大学等において学ぶ学生の割合が低く、社外学習や自己啓発を行っていない社会人が諸外国と比べて突出して多いことが報告されている」と続いています。
子供のころに集中して学習し、大人になってから改めて学ぶ、ということについては私の周囲にもロールモデルがとても少ないですね。
では、日本人が総じて学びたくないのか、というとそうではなく、学びやすい環境があれば、学ぶ意欲がある人はおり、その環境を整える必要がある、と述べています。
どのような環境を整えればよいかということについて計画には以下のように書かれています。
- 社会人が学びやすい教育プログラムが提供される
- 企業等において学びの成果が適切に評価され、キャリアアップが促進される
- 就職・転職といった自らの意思による労働移動も含む選択肢の増加
- それに伴う社会経済的地位の向上が図られる
- 学修歴や学修成果の可視化
- 学位と資格等との関係性の可視化
- 学ぶ意欲がある人への支援の充実
課題が多くありますね。ただ、課題を明確化しないと何ごとも始められませんから、計画に書かれる意義はそこにあると思います。
来週は教育振興基本計画の続き、②誰一人取り残されず、全ての人の可能性を引き出す共生社会の実現に向けた教育の推進について読んでいきます。
投稿者プロフィール
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株式会社ハイパーブレインの取締役教育DX推進部長 広報室長です。
教育情報化コーディネータ1級
愛知教育大学非常勤講師です。専門はICT支援員の研究です。
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