教育振興基本計画12
皆さんこんにちは。
令和5年6月、新たな教育振興基本計画が閣議決定されました。
そもそも教育振興基本計画とは、「教育基本法(平成18年法律第120号)に示された理念の実現と、我が国の教育振興に関する施策の総合的・計画的な推進を図るため、同法第17条第1項に基づき政府として策定する計画です。」と説明にある通り、政府が教育をどのようにしていくか、という施策のもとになるものです。
特に行政職の皆様はしっかりコンセプトや計画を確認して、ご自分の自治体の施策にご活用いただければと思います。なぜなら、予算が通りやすいからです。自治体独自の施策を実施しようとしたときに、「教育振興基本計画のこの部分に則っています」という説明は大変有効ではないでしょうか。
本文のボリュームも多く、新しい言葉も次々出てきますが、ゆっくりご一緒に確認していきましょう。
Ⅱ.今後の教育政策に関する基本的な方針
⑤計画の実効性確保のための基盤整備・対話
(NPO・企業等多様な担い手との連携・協働)
学校経営の方向性として「自前主義からの脱却」が挙げられています。スクールカウンセラーが学校に導入された時に「黒船の来航」と表した教員がいたということですが、つまり、「学校の問題は先生が解決する」ということが基本だったということです。ですが、学習指導要領に従って授業を実施しようとすると、すべての教員のバックグラウンドに外国語を活用した経験や企業での就労経験、自営業での経営経験、就農・漁業経験、あらゆるボランティア活動の経験、プログラミングで試行錯誤した経験など、多種多様多方面にわたった経験が必要になってしまいます。(座学で勉強することは可能ですが、それで全て代替できるわけではないことは指導要領にもある通りです)
現在の教員の多忙化の状況を考えると、先生だけでなんとかなる、ということはもう不可能です。
ICTで仮想体験をすることについて、本物ではない、という意見をお持ちの人がいるということも考えると、「本物」を体験することは学びにとって重要であることが考えられます。
そのために、計画では
- 不登校の児童生徒や引きこもりの青少年の支援などに取り組む NPO 法人
- 子供たちの体験活動の機会提供や ICT 教育支援を行う企業
- 部活動を支える地域のスポーツ及び文化芸術団体
など多様な担い手と学校との連携・協働を推進すべきだと述べられています。
また、学習に関することだけではなく、子どもたちの健康と安全を守るために、以下の機関との連携も強化することが挙げられています。
- 医療・保健機関
- 福祉機関
- 警察・司法
(安全・安心で質の高い教育研究環境の整備、社会教育施設等の整備)
ここで述べられている環境は、「適切な維持管理や長寿命化改修をはじめとした計画的な老朽化対策、防災機能強化」とあり、主に校舎のことだとわかります。そのほか、バリアフリーや図書館のことなども述べられています。社会教育施設ではデジタル基盤の強化と書かれていることから、まだまだインフラとしてのデジタルの設備が整っていない状況がわかります。
(私立学校の振興)
私立学校の教育研究環境の整備に向けた取り組みについては、私学助成について、メリハリある配分強化が必要など、支援のバランスについて言及されています。資金調達の環境整備や、早めの経営判断なども挙げられています。
(児童生徒等の安全確保)
6行書かれていますが、一文です。とにかく、児童生徒の命に関わるようなことはあってはならない、ということが大前提ですね。
第3次学校安全の推進に関する計画に基づきセーフティプロモーションスクールの考え方を取り入れる、とあります。上記計画を確認したところ、セーフティプロモーションスクールとは「学校安全に関する指標(組織、方略、計画、実践、評価、改善、共有)に基づいて、学校安全の推進を目的とした中期目標・中期計画(3年間程度)を明確に設定し、その目標と計画を達成するための組織の整備と S-PDCAS サイクルに基づく実践と協働、さらに分析による客観的な根拠に基づいた評価の共有が継続されていると認定された学校を認証する取組。」ということです。子どもたちの命と安全は、何より優先されるべきことです。どのように学校安全を保つか、という計画はとてもとても大切ですね。
大体において何も起こらなければ、何も起こらないのが日常になり、何か起きないために仕事をしている、努力をしている誰かがいる、ということを忘れてしまいがちです。何かが起こって初めて気づくことも多いのですが、それでは遅いのです。
(こども政策との連携)
こども基本法によってこども大綱が定められることが決まりました。こども基本法には国が大綱を作る、とあります。都道府県、市町村はその大綱をもとに計画を作るとあります。教育振興基本計画の推進に当たっては、こども大綱に基づくこども施策と相互に連携を図りながら取り組む必要がある、と述べられています。
こども大綱は今策定に向けて動いています。
https://www.cfa.go.jp/policies/kodomo-taikou/
(各ステークホルダーとの対話を通じた計画策定・フォローアップ)
とても大切なことが書いてあります。
「計画策定に向けては、教育関係団体や関係省庁から意見を聴くとともに、教育の当事者である子供からの意見を聴くことも必要である。」
学校最大のステークホルダーは子どもだと思っているのですが、学校運営に子どもが関わっているという話は寡聞にしてあまり聞いたことがありません。今回の計画では、「生徒・学生からのヒアリング、内閣府「ユース政策モニター」の子供・若者との意見交換・アンケート」が実施されたとのことです。
ヒアリング対象の生徒・学生(児童が含まれていないのが残念です)がどこの地域なのかも興味深いです。離島の生徒や、限界集落に住む生徒などからの意見はヒアリングの機会はあったのかな、ということを思います。もちろん、全員の意見を反映させることはできませんし対立する意見もあるでしょうけれど、「ヒアリングする」という行為はとても大切だと思います。
来週は教育振興基本計画Ⅲ.今後の教育政策の遂行に当たっての評価・投資等の在り方を読んでいきます。
投稿者プロフィール
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株式会社ハイパーブレインの取締役教育DX推進部長 広報室長です。
教育情報化コーディネータ1級
愛知教育大学非常勤講師です。専門はICT支援員の研究です。
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