TALIS2024から見える日本の教員とICT ― 自治体が取るべき視点
2025年10月7日、OECDによる国際教員指導環境調査「TALIS2024」の結果が公表されました。
仕事時間・ICT活用・専門性向上・支援体制など、今、日本の教育がどうなっているかということを世界と比較できる資料です。
せっかくこのようなデータがあるのなら、行政職の皆様が、文部科学省の方針と共に「自分たちの戦略」にどう活用するかという視点が大切です。
この記事では、TALIS2024の結果をもとに、日本の教員が直面する課題を整理し、行政職の皆様が注目すべきポイントとアクションを解説します。
もともとの資料は以下のURLから確認することができます。OECDは英語ですが、様々なデータを参照することができます。国立教育政策研究所では日本語に訳した報告書のポイント等が読めます。
OECD:TALIS 2024 Database https://www.oecd.org/en/data/datasets/talis-2024-database.html
国立教育政策研究所:OECD国際教員指導環境調査(TALIS)https://www.nier.go.jp/kokusai/talis/index.html
そもそも、TALISとは何か?
OECDが5年ごとに実施する「TALIS(Teaching and Learning International Survey)」は、世界の教員や校長を対象にした大規模国際調査です。
勤務時間、職能開発、ICT環境、職場文化などを比較することで、教育現場の構造的課題を明らかにします。
日本は2008年から参加しており、今回の2024年版は4回目の参加となります。
文部科学省のこちらのサイトで確認できます。https://www.mext.go.jp/b_menu/toukei/data/Others/1349189.htm
教員の働き方は改善傾向、それでも依然として長い
今回の結果では、日本の教員の1週間の総勤務時間は2018年より4時間程度減少しましたが、依然としてOECD諸国の中で最長水準です。特に中学校は2位と10時間程度差がついています。

OECD国際教員指導環境調査(TALIS)2024報告書のポイント https://www.nier.go.jp/kokusai/talis/pdf/talis2024_point.pdf P2より引用
そして、授業そのものよりも、部活動や事務処理などの「非授業業務」に多くの時間を割いている構造は変わっていません。授業をする時間自体はOECD平均より少ないのに、労働時間が最長というところに大きな課題があるといえます。

OECD国際教員指導環境調査(TALIS)2024報告書のポイント https://www.nier.go.jp/kokusai/talis/pdf/talis2024_point.pdf P2より引用
つまり、「働き方改革の兆し」は見える一方で、現場を支える仕組みと人材がまだ不足しているという現実が示されました。
1人1台のタブレットは整備された。次は「活用」を支える段階へ
GIGAスクール構想により、1人1台端末が全国で整いました。ネットワークの整備も国の方針では今年度中に必要な容量を確保することになっています。
TALISの結果でも「ICT等が不足又は不適切」と答える教員の割合は20%以上大幅に減少し、OECD平均を下回りました。
しかし、「ICTを活用して授業を支援できている」と答えた教員は依然として半数に届きません。また、「支援職員等の不足」を感じている校長は前回より増加し、小学校では約66%、3人に2人が不足していると感じているという結果です。中学校でも約47%、ほぼ半分がそのように感じているという結果が出ています。

OECD国際教員指導環境調査(TALIS)2024報告書のポイント https://www.nier.go.jp/kokusai/talis/pdf/talis2024_point.pdf P3より引用
ですので、今後は、ハード整備から「人と時間の支援」へフェーズを進める必要があるといえるでしょう。
ICT支援員やヘルプデスクを、単なる「操作支援」「デジタイゼーションの伴走者」だけではなく、「授業改善の伴走者」「デジタライゼーション、DX推進の伴走者」として位置づけ直すことがとても重要です。ご自分の自治体ではどのような子どもを育てられたいのか、それを支援するDX化はどれくらい進んでおり、次に到達したいところはどこなのか、ICT支援員やヘルプデスクにお話しいただき、学校現場の声を聞き、何をしていけばいいのか、明確にしていくことがより良いサイクルを生みます。
研修・学び直しの最大の壁は「時間の不足」
「 ICT等を授業に取り入れる教育スキル及びICT等を使用する技術スキルに関する専門的な学習の必要性を感じている」教員の割合は、小中学校とも国際平均よりも約20%高くなっています。先生方は1人1台の環境を活かそうとされていることがよくわかります。令和6年度学校における教育の情報化の実態等に関する調査結果(概要)https://www.mext.go.jp/content/20250829-mxt_shuukyo01-000044325_001.pdf によると、実際に研修を受けている先生は全国平均で約72%です。(令和6年度中にICT活用指導力の各項目に関する研修を1回以上受講した教員)
研修を受講できない理由として、「時間が足りない」が大きな障壁として挙げられました。学校現場では欠員が半ば恒常化し、先生方は目の回るような忙しさで働いています。ICTや新しい教育手法を学びたくても、時間が確保できない現実があります。
欠員補充が一番必要な状況ですので、行政職の皆様は、十分な人数の先生を採用する方法に知恵を絞っていらっしゃるところだと思いますが、研修の課題も待ったなしです。個人の努力に委ねるのではなく、制度で研修時間を保障する発想が必要です。
- 時間割上に研修を正式に位置づける
- オンデマンド研修や動画研修の導入
- ICT支援員による伴走型研修の設計
これらを通じて、研修を「勤務時間内の学び」として制度化することが重要です。OECD平均より多い、「遠くて利用できない」専門的な学習は、オンライン、動画等をもっと積極的に活用していく必要があるということを表していると思います。
今こそ多様な人材が関わる「チーム学校」の構築へ
「誰一人取り残さない」教育が求められていることは既に皆様ご存知の通りです。その教育が必要であること、できたらとても良いこと、というのは大体共通認識だと思います。これを実現するためには様々なハードルがありますが、TALISでは、教員の多様性と支援体制の不足が明らかになっています。
教職以外の経験を持つ教員の割合が低く、ICTを自信をもって使える教員も限られています。

OECD国際教員指導環境調査(TALIS)2024報告書のポイント https://www.nier.go.jp/kokusai/talis/pdf/talis2024_point.pdf PDF2枚目より引用

OECD国際教員指導環境調査(TALIS)2024報告書のポイント https://www.nier.go.jp/kokusai/talis/pdf/talis2024_point.pdf P6より引用
令和6年度学校における教育の情報化の実態等に関する調査結果(概要)https://www.mext.go.jp/content/20250829-mxt_shuukyo01-000044325_001.pdf では、「児童生徒のICT活用を指導する能力」について、「できる」「ややできる」という教員が平均約83%となっています。TALISの結果とは乖離がありますが、これは「ややできる」の解釈が主観的なところに課題があると思います。TALISは「かなりできている」「非常によくできている」の結果ですから、自信をもって指導ができるかどうか、というと半分以上の先生が自信がない、と考えているといえるでしょう。
ですので、行政職の皆様は、「一人の先生がすべてを抱える学校」からの転換を設計する必要があります。
ICT支援員をはじめ、校務サポートスタッフ、スクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカー、図書館司書、ALTらの外部専門人材など、多様な人が関わる「チーム学校」体制が、これからの学校運営の鍵となります。
子どもたちの学びを伸ばすことに必要な先生のための3つのアクション
子どもたちが楽しく学ぶためには、先生方が楽しく働けることが大切です。先生方を楽にすることが、喫緊の課題です。以下3点をご確認いただけるといいのかなと思います。
1 TALISデータを自治体レベルで読み替える
ご自分の自治体の現状と照らし合わせて課題を特定する。
2 支援体制を常設化する
ICT支援員やヘルプデスクを中長期的に配置・育成できる制度へ。
3 「学ぶ時間」を制度で保障する
研修を「余力」ではなく、「制度」として確保する。
1は行政職の皆様が実施できることだと思います。2は言うのは易く実行は難しいことですね。複数年契約へのハードルがとても高いことは理解していますが、それができると、学校現場も、教育委員会も、支援人材も、みんな働きやすく実効性の高い支援となります。3は、思い切らないとできないことですが、これをやれると、画期的で、働き方改革の推進となることです。
おわりに:数字を変化の契機に
TALISの結果は、社会が「先生をどう支えるか」を考えるための指標です。
教育の情報化を支える私たちの仕事は、その指標をどう改善していくかそのものの仕事です。ハイパーブレインは、行政職の皆様とご一緒に考え、より良いご支援を創造し続けることで、先生方を支え、教育を良くしていくことを実行します。
整備から活用へ、支援から共創へ。
TALISが映し出す現場の課題を、未来を動かす実践の羅針盤として活かしていくために、ハイパーブレインがご支援いたします。
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投稿者プロフィール

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株式会社ハイパーブレインの常務取締役です。
教育情報化コーディネータ1級
愛知教育大学非常勤講師です。専門はICT支援員の研究です。
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