デジタル庁「GIGAスクール構想に関する教育関係者へのアンケート結果及び今後の方向性について」のご紹介4

前回は保護者・教職員からのアンケート結果の分析によってわかったことや、見えてきた課題についてご説明させていただきました。
今回は、これまでに紹介した様々なご意見、課題に対する国の施策・方針をご紹介させていただきます。

表層課題の裏にある課題と課題の真因

本アンケート分析では、表層課題の裏にある課題と、更に裏にある課題の真因が示されています(下図)

アンケートの分析結果12_考察(1)

<出典:デジタル庁 総務省 文部科学省 経済産業省 GIGAスクール構想に関する教育関係者へのアンケートの結果及び今後の方向性について 令和3(2021)年9月3日 P14
https://www.digital.go.jp/assets/contents/node/information/field_ref_resources/ef0c3b27-0c39-447e-a7e5-68edb9c975c9/20210903_giga_summary.pdf (最終閲覧日2022年7月12日)>

裏にある課題では、ICTリテラシーの不足や校務のデジタル化の遅れ、端末の整備が示されており、課題の真因では、学習のあり方(一人一台端末でどういう学びをしたらよいのか)や、指導の在り方(教員研修/養育をどう変えていくか、外部人材をどう活用するか)が挙げられています。
そして、それら課題に対するゴールとしての「目指す学びの姿の欠如・提示不足」が指摘されています。

また、裏にある課題は、急ぎ議論を開始し一部は令和3年度中の解決を目指す*1、とされている一方で、課題の真因に対しては「まずは議論できる体制を整備」とされています*1

これは、具体的にどのようにしてGIGAスクール含む教育政策を評価・検証するのかなどの仕組みが未整備で、その検証から始めなければならないため、時間がかかると考えられます。

課題に対する解決方針

次のページでは、課題に対する具体的な解決方針が掲載されています。(下図)

アンケートの分析結果13_考察(2)

<出典:デジタル庁 総務省 文部科学省 経済産業省 GIGAスクール構想に関する教育関係者へのアンケートの結果及び今後の方向性について 令和3(2021)年9月3日 P15
https://www.digital.go.jp/assets/contents/node/information/field_ref_resources/ef0c3b27-0c39-447e-a7e5-68edb9c975c9/20210903_giga_summary.pdf (最終閲覧日2022年7月12日)>

特に課題の真因に対しては「目指す学びの姿について、複数省庁横断で議論し、方針を提示」*2とされています。

「文部科学省以外の省庁がどう学校教育に関わるんだろうか?」と思われる行政職の方もいらっしゃるかもしれません。
例えば総務省ではGIGAスクール構想で収集したデータを活用して個別最適化された学びを支援するとされています*3
その他にも、EdTechやSTEAM等、学びの最新動向についての情報を提供している「未来の教室 ~learning innovation~」は経済産業省管轄のコンテンツであり*4、ここでご紹介しているアンケートの分析を行っているのはデジタル庁です。

こういった各省庁の特色を活かし、得意な分野から課題解決への指針を示していくと考えられます。

そのため、これまで主に文部科学省の指針によって動いてきた学校現場に大きな変化が起こる可能性もあり、特にこれまであまり解決へ進まなかった課題(校務のデジタル化、外部人材の登用、働き方改革)等に対する進展が期待できます。

それぞれの場所での課題に対する国の施策方針

次のページでは国、自治体、家庭、学校それぞれの場所での、課題に対する国の施策方針が掲載されています(下図)

国の施策の方向性1

<出典:デジタル庁 総務省 文部科学省 経済産業省 GIGAスクール構想に関する教育関係者へのアンケートの結果及び今後の方向性について 令和3(2021)年9月3日 P17
https://www.digital.go.jp/assets/contents/node/information/field_ref_resources/ef0c3b27-0c39-447e-a7e5-68edb9c975c9/20210903_giga_summary.pdf (最終閲覧日2022年7月12日)>

「アンケートで寄せられた意見について、関係省庁で共有・検討し、アンケート終了から1か月で今後の施策として明らかにできるものを提示*5」として、主な国の施策が提示されています。
一方で、全ての課題を一斉に解決できるわけではなく、
「学校のネットワーク環境のさらなる改善や教職員端末の整備・更新を始め、引き続き検討を重ねるべき事項も存在する為、今後も関係省庁によって検討し、さらなる推進が必要な事項は、デジタル社会形成基本法に基づき閣議決定する「新重点計画」に記載*5
とされています。(下図)

アンケートの分析結果_国の施策の方向性2

<出典:デジタル庁 総務省 文部科学省 経済産業省 GIGAスクール構想に関する教育関係者へのアンケートの結果及び今後の方向性について 令和3(2021)年9月3日 P18 https://www.digital.go.jp/assets/contents/node/information/field_ref_resources/ef0c3b27-0c39-447e-a7e5-68edb9c975c9/20210903_giga_summary.pdf (最終閲覧日2022年7月12日)>

主な意見に対する国としての考え方

その他にも、アンケートで寄せられた意見に対して、子供と大人に分けてそれぞれで国としての考え方が掲載されています。

分量が非常に多いため、すべてを掲載することはできませんが、子供と大人それぞれからの意見で、これまであまりご説明してこなかった意見をピックアップしてご紹介いたします。

子供からの意見(下図)

主な御意見に対する考え方_こども5

<出典:デジタル庁 総務省 文部科学省 経済産業省 GIGAスクール構想に関する教育関係者へのアンケートの結果及び今後の方向性について 令和3(2021)年9月3日 P23 https://www.digital.go.jp/assets/contents/node/information/field_ref_resources/ef0c3b27-0c39-447e-a7e5-68edb9c975c9/20210903_giga_summary.pdf (最終閲覧日2022年7月12日)>

・インターネットだけに頼らずに、自分の手でも1回探してみること。理由は、インターネットばかりに頼っていると、将来頼りきりになって、自分で探すという意欲が無くなり、社会で生きる力がなくなっていくと思うから。*6

この意見に対する国の考え方は、
「情報を自分で探しながら、何が重要かを自分で考え、その情報を活用しながらほかの人たちと協働し、新たな価値を作っていくことが必要です。
その際、インターネットのみならず、新聞や本、他の人達との意見交換など、様々な方法を組み合わせて自分で情報を活用していくことが大事です。*6」とされています。

この意見の考え方は非常に重要です。インターネットは情報を得るためにとても便利ですが、その情報の正確性は必ずしも保障されていません。
そのため、発行元を確かめたり、得られた情報が正確なものか精査する能力の獲得は、これからの情報社会を生きていく児童生徒にとって、とても重要になります。

大人からの意見(下図)

主な御意見に対する考え方_大人6

<出典:デジタル庁 総務省 文部科学省 経済産業省 GIGAスクール構想に関する教育関係者へのアンケートの結果及び今後の方向性について 令和3(2021)年9月3日 P32 https://www.digital.go.jp/assets/contents/node/information/field_ref_resources/ef0c3b27-0c39-447e-a7e5-68edb9c975c9/20210903_giga_summary.pdf (最終閲覧日2022年7月12日)>

・教員になる方々にICT活用を実践することを前提とした大学でのカリキュラムなどを実装すべき。*7
・大学の教職課程の講義に効果的な活用の内容を組み込む。*7

これらの意見に対しての国の考え方として、
「教職課程において、ICTを活用した効果的な授業方法や、子供たちの情報モラル含む情報活用能力を育成するための指導方法等を修得できるよう、ICTに特化した科目を新設し、ICT機器を活用する授業の設計や授業の方法等について総論を1単位以上学ぶことを令和4年4月から義務化しました。*7
と示されています。

つまり、これから学校に赴任する新任の先生方は、最低限ICTについて勉強した人、ということになります。ただ、教員免許を取得するために必要な単位の内の1単位だけですので、その単位を取っているからICTをいきなり現場でしっかりと活用できる! というわけではない為、注意が必要です。

しかし、今後は先生になるためにICTを授業へ活用する技術を持っている人が有利になってくると考えられます。

例えば、令和4年度実施の名古屋市公立学校採用選考試験要項では、「ICT支援員能力検定」「教育情報化コーディネータ試験」取得者に特例加点措置がされる*8など、全国的に大きな自治体でも新任の教職員にICT活用能力を求める動きが出始めています。

そのため、これからの学校現場では、ICTの活用が出来ることがメリットとなるのではなく、活用できないことがデメリットとなっていく可能性があります。

もしも先生の学校でのICT活用に不安がある、という場合には「ICT支援員養成講座」(外部サイト)の受講をご検討されてみてはいかがでしょうか?
こちらの講座では、情報技術の基礎知識や、学校でICT支援員がどのように授業・学習を支援すると良いかを複数単元に分けて学ぶことができます。

学校での工夫事例

学校での工夫事例については、下図で具体例が紹介されています。

学校現場での工夫事例1

<出典:デジタル庁 総務省 文部科学省 経済産業省 GIGAスクール構想に関する教育関係者へのアンケートの結果及び今後の方向性について 令和3(2021)年9月3日 P44 https://www.digital.go.jp/assets/contents/node/information/field_ref_resources/ef0c3b27-0c39-447e-a7e5-68edb9c975c9/20210903_giga_summary.pdf (最終閲覧日2022年7月12日)>

「「失敗してもいいのでとにかくやってみる」精神で取組んでます*9」や「隙間時間やモジュールの形など、短時間でも継続してタブレットを使う時間を確保するように努めた*9」といった、学校でのICT活用を踏み出すための取り組みが行われています。

また、非常時のための「オンライン授業が可能かどうか、各家庭のネットワーク環境、個々の操作力を試すために、帰りの会を自宅にて全校一斉に自宅から行いました。」といった、今後より一層のICT活用につながる事例が多く紹介されています。*9

その他にも、教職員の活用事例・サポート体制として、
「ICT担当1人では推進ができないので、管理職と数名の教員でチームを組んでICTの推進に取り組んでいる*10」や
「ICTが苦手な教員も得意な教員も、輪番制で全員が参加するICT活用について検討し合う委員会を創設し、この委員会では、ICTは苦手だが授業力の高いベテランの先生の意見や、ICTは得意だが経験の浅い先生の意見など、忌憚のない意見を言い合える環境で取り組んでいる*10
といった教職員のICT活用を推進する取り組みが複数紹介されています。(下図)

学校現場での工夫事例8

<出典:デジタル庁 総務省 文部科学省 経済産業省 GIGAスクール構想に関する教育関係者へのアンケートの結果及び今後の方向性について 令和3(2021)年9月3日 P51 https://www.digital.go.jp/assets/contents/node/information/field_ref_resources/ef0c3b27-0c39-447e-a7e5-68edb9c975c9/20210903_giga_summary.pdf (最終閲覧日2022年7月12日)>

管理職の方々が陣頭に立ってICT活用を促進することの重要性は前回ご説明させていただいた通りです。また、先生方がお互いに持っていない知見を共有しあうことでより良い授業に繋がっていくという、とても良いサイクルの発展が期待できます。

その他にも、学校でのICT活用のサポート体制として
「ICT支援員の先生とのTTの授業では児童はもちろんであるが教師は具体的に使い方を学べた。打ち合わせる時間が短時間でも有意義な時間になった*10
「GIGAスクールサポーターさんが学校に定期的にきてくれるので、メンテナンス面の対応だけでなく、学習への指導方法も相談できる。また、他校と兼務されているので、同じ市内の様子も把握しやすくなった*10
といった事例が挙げられています。

また、他校と兼任している支援員に自治体内の他の学校はどのようにICT活用を進めているかを聞いてみると、その自治体の特色に合った、具体的かつ効果的なICTの導入・活用方法を得られる可能性があります。

こういった例をご参考としていただき、自治体様の特色・方針に合った学校でのICT利活用促進の方法をご検討いただければと思います。

最後に

ここまでお読みくださいまして、ありがとうございました。これまで4回に渡り、「GIGAスクール構想に関する教育関係者へのアンケート結果及び今後の方向性について」をご説明させていただきました。

次回からは、文部科学省「改訂版 全国の学校における働き方改革事例集(令和4年2月)」(外部リンク)についてご説明させていただく予定ですので、少しでも働き方改革に興味をお持ちの行政職の皆様に是非見ていただければと思います。

引用

*1 デジタル庁 総務省 文部科学省 経済産業省 GIGAスクール構想に関する教育関係者へのアンケートの結果及び今後の方向性について 令和3(2021)年9月3日 P14

https://www.digital.go.jp/assets/contents/node/information/field_ref_resources/ef0c3b27-0c39-447e-a7e5-68edb9c975c9/20210903_giga_summary.pdf

(最終閲覧日2022年7月12日)

*2 デジタル庁 総務省 文部科学省 経済産業省 GIGAスクール構想に関する教育関係者へのアンケートの結果及び今後の方向性について 令和3(2021)年9月3日 P15

(最終閲覧日2022年7月12日)

*3 総務省 総務省におけるGIGAスクール構想等の取組について

20210204soumu.pdf (japet.or.jp)

(最終閲覧日2022年7月12日)

*4 経済産業省 未来の教室 ~learning innovation~

https://www.learning-innovation.go.jp/

(最終閲覧日2022年7月12日)

*5 デジタル庁 総務省 文部科学省 経済産業省 GIGAスクール構想に関する教育関係者へのアンケートの結果及び今後の方向性について 令和3(2021)年9月3日 P18

(最終閲覧日2022年7月12日)

*6 デジタル庁 総務省 文部科学省 経済産業省 GIGAスクール構想に関する教育関係者へのアンケートの結果及び今後の方向性について 令和3(2021)年9月3日 P23

(最終閲覧日2022年7月12日)

*7 デジタル庁 総務省 文部科学省 経済産業省 GIGAスクール構想に関する教育関係者へのアンケートの結果及び今後の方向性について 令和3(2021)年9月3日 P32

(最終閲覧日2022年7月12日)

*8 令和4年度実施 名古屋市公立学校教員採用選考試験要項 P3

https://www.digital.go.jp/assets/contents/node/information/field_ref_resources/ef0c3b27-0c39-447e-a7e5-68edb9c975c9/20210903_giga_summary.pdf

(最終閲覧日2022年7月12日)

*9 デジタル庁 総務省 文部科学省 経済産業省 GIGAスクール構想に関する教育関係者へのアンケートの結果及び今後の方向性について 令和3(2021)年9月3日 P44

(最終閲覧日2022年7月12日)

*10 デジタル庁 総務省 文部科学省 経済産業省 GIGAスクール構想に関する教育関係者へのアンケートの結果及び今後の方向性について 令和3(2021)年9月3日 P55

(最終閲覧日2022年7月12日)


投稿者プロフィール

田代 雄太
田代 雄太
株式会社ハイパーブレイン 教育DX推進部所属
教育情報化コーディネータ3級
GIGAスクール構想に関する情報をお届けいたします