クラウド環境整備の手順について(前編)

前回はクラウド導入の留意点についてご説明させていただきました。今回、次回で、クラウド環境の整備に必要な手順をご説明させていただきます。

総務省の公表している「教育クラウド調達ガイドブック」(https://www.soumu.go.jp/main_content/000700786.pdf)では、クラウド環境の整備は、下の図のように準備段階、計画段階、調達段階、運用段階の4つのプロセスに分けられます。*1今回はこの内の準備段階、計画段階までをご説明させていただきます。

環境整備のプロセス
<参考資料 総務省 教育クラウド調達ガイドブック 本編 P14
https://www.soumu.go.jp/main_content/000700786.pdf
(最終閲覧日 2021年12月2日)>

1.準備段階

準備段階は以下の点について目的を明確にし、その目的を達成するには費用を含め何が必要か情報収集して見通しを立てるプロセスです。なお情報収集に取り組む前に、セキュリティの専門家等を含めたクラウド調達の推進体制を確立することが効果的だと考えられます。*1

(1)教育の情報化のビジョンを描き、児童生徒 、教員・学校 、 教育委員会それぞれの行動目標を設定*1
(2)教育の情報化の現状を把握*1

1.ネットワーク構成や端末の配備状況等の物理的な現状環境の確認

校務用パソコンや電子黒板やタブレット等の端末配備の現状、学校の LAN 環境、学校からインターネットに接続する経路の構成とネットワーク帯域等を明らかにして、目標に対して、何がどのくらい不足しているかを明らかにします*2

2.機器を有効活用し、授業に取り入れるスキル等の教職員のICT活用能力

物理的な環境を整備すれば自動的に学習効果が発揮されるわけではなく、それを使いこなす先生方のスキルがあってこそ、整えられた環境を有効活用することができます。そのため、以下の事柄を把握することが重要です。*2

  • どの程度校務でICT機器を利活用しているかの頻度を確認
  • どのような場面で、どのような機器の使い方をしているかの確認(一斉授業で教材拡大提示、個別学習で学習者用端末を利用してドリル学習やインターネット上で調べ学習、協働学習で学習者用端末を利用して自分の意見を述べ合う等)
  • ほとんどICT機器を利活用していない先生が、どのような理由で利用していないかについて、環境面と意識・スキル面の調査・確認
  • 機器を利用する教員に対して、ICT機器の活用が実際にどのような場面で効果的に活用できるかを確認

学校現場で実際に機器を使用する先生たちにとっても、現場の意向や課題を把握することは、環境整備への期待を高め、その機運を高めることにつながります。アンケートやヒアリングを通じて広く、丁寧に学校現場の現状を把握するようにしましょう。*2

(3)整備方針を大枠で可視化*1

以下の二点を可視化し、把握できるようにします。

1.目標を達成するために必要な教育ICT環境整備と教員の利活用支援の概要

利活用支援には物理的な環境の整備だけでなく、先生方のICT機器活用を助けるためのICT支援員等の人的支援の利活用も含まれます。アンケートやヒアリングを通じて得られた先生のスキルレベルに応じて必要な支援をご検討いただく必要があります。

2.教育ICT環境整備の要素となる端末、ネットワーク整備、クラウドサービス、ICT支援員等の外部調達に関する製品やサービス情報の収集(必要に応じて情報提供依頼(RFI))を実施して、全体の概算予算を把握

(4)教育ICT関連法令の確認(教育情報セキュリティポリシー、個人情報保護法制等)*1

  • 現行教育情報セキュリティポリシーに整合するか、整合しない場合には見直しを進めるか
  • クラウドに個人情報を保管する場合について個人情報保護法制上どのような手続きが必要か

この段階では、自治体の個人情報保護条例とどのように折り合いをつけるかといった、自治体内での調整が非常に重要になってくると考えられます。実際に自治体を挙げてクラウド環境を整備した例として、以前の記事(奈良県におけるGIGAスクール端末共同調達の実例)でもご紹介させていただいた奈良県奈良市の例を掲載させていただきます。

奈良市個人情報保護条例第10条第2項の規定に係る諮問について(答申)(PDF)*3(外部リンクが開きます)https://www.city.nara.lg.jp/uploaded/attachment/114248.pdf

準備段階が完了したら、次は計画段階へ進みます。

2.計画段階

教育情報化計画を策定する段階です。準備段階で収集した情報に基づき、行動目標を達成するために、どのような教育ICT環境を整備し、教員を支援するためにいくら費用がかかるのかについて、具体的な計画を策定します。

計画段階では、準備段階で検討した大まかな概要や方向性を具体化するプロセスと言えます。*1 このプロセスは、以下の図の(ア)~(エ)の順に進めていきます。

計画段階
<参考資料 総務省 教育クラウド調達ガイドブック 本編 P14-P15
https://www.soumu.go.jp/main_content/000700786.pdf
(最終閲覧日 2021年12月2日)>

ここでは、準備段階で行った実際に校務を行う先生へのヒアリングで得られた情報が大切になります。

例えば、現在の学校現場では、先生が学習系クラウドから校務系クラウドへデータを入出力する際に、一々学習系と校務系のネットワークを切り替えながら入力する等の手間が発生しています。そこで、先生がどのような手順で実際に校務を行っているか十分なヒアリングを行い、よく確認することが重要です。

あまりICTに明るくない先生がどこで躓いているのかを確認し、もしそれが情報を取り扱うスキルやリテラシーを身に着ける取り組みを行うことで躓かなくなるのなら、その後に現場の先生のお手間を減らす仕組み(入出力データを整えるソフトウェアを導入したりする等)を検討することができるようになります。

学習系の情報と校務系の情報のやり取りを、セキュリティを担保してスムーズに行うことができるようになれば、それは先生方の作業効率を大きく上げることにつながります。

そのような機器・ソフトウェアの導入もしかり、先生方のスキル・リテラシーの向上もしかり。それらが両輪としてご一緒に考えられるような計画を作ることができるよう、入念なヒアリングを行うことが大切であると考えられます。

ここまでお読みくださいまして、ありがとうございました。今回はクラウド環境整備の4つのプロセスの内、準備段階、計画段階までをご説明させていただきました。

次回は調達段階、運用段階のご説明をさせていただきたいと思います。

<出典>

*1 総務省 教育クラウド調達ガイドブック 本編 P14 より、一部改変して引用https://www.soumu.go.jp/main_content/000700786.pdf (最終閲覧日2021年12月23日)

*2 総務省 教育クラウド調達ガイドブック 本編 P12 https://www.soumu.go.jp/main_content/000700786.pdf (最終閲覧日2021年12月23日)

*3 奈良県奈良市 奈良市個人情報保護条例第10条第2項の規定に係る諮問について(答申)https://www.city.nara.lg.jp/uploaded/attachment/114248.pdf (最終閲覧日2021年12月23日)

投稿者プロフィール

田代 雄太
田代 雄太
株式会社ハイパーブレイン 教育DX推進部所属
教育情報化コーディネータ3級
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