教育DXで共有したい「設計思想」という考え方― 教育委員会が持つべき「設計力」とは

はじめに

教育DXを進める中で、こんな場面はないでしょうか。

「この運用、なぜこうなっているんでしたっけ?」

「前任者に聞かないと分からないですね」
「ベンダーさんに確認してみます」
「ICT支援員さんなら知っていると思います」

もちろん、それ自体は悪いことではありません。

ベンダーには技術的な知識があります。
ICT支援員には現場の知見があります。

教育DXは、多くの専門家との協力によって成り立っています。
しかし、その会話が増えるほど気になることがあります。

それは、
「なぜその運用になっているのか」
を説明できる人がいなくなってしまうことです。

  • 担当者が替わるたびに確認が必要になる
  • システム更新のたびに議論が振り出しに戻る
  • 事業者が替わるたびに一から説明する

こうした状況は、技術不足ではなく、

「設計思想が共有されていないこと」

から生まれているのかもしれません。

今回は、教育DXを継続していくために教育委員会が持つべき「設計思想」と「設計力」について考えてみたいと思います。

教育DXが進むほど重要になる「設計思想」

教育DXに関わる技術は年々高度になっています。

  • クラウド
  • 認証基盤
  • ゼロトラスト
  • 生成AI

新しい技術が次々と登場し、それぞれに専門的な知識が求められます。職員や指導主事がすべてを理解し続けることは現実的ではありません。

だからこそ、

  • 専門的な技術は専門家に任せる

という考え方は重要です。

その一方で、専門家に任せられないものがあります。それが、

「なぜそうするのか」

という考え方です。

  • どの課題を解決したいのか
  • どのような教育を実現したいのか
  • 何を優先し、何を大切にするのか

こうした考え方を、私は「設計思想」と呼んでいます。

教育委員会が持つべき3つの設計

では、教育委員会は何を持っていればよいのでしょうか。

私は少なくとも次の3つだと考えています。

① 目的の設計

なぜそのシステムを導入したのか。
なぜその取組を始めたのか。

例えば、

「教員の負担軽減のため」

なのか、

「子どもの学びを充実させるため」

なのかで、同じシステムでも運用は変わります。まず必要なのは目的を共有することです。

② 運用の設計

なぜそのルールなのか。
なぜその手順なのか。

現場では運用が積み重なっていきます。

しかし理由が共有されていなければ、

「前からそうだったから」

だけが残ってしまいます。

運用の背景を説明できる状態を作ることが重要です。

③ 判断基準の設計

教育DXでは例外対応が必ず発生します。

学校から個別の要望が出ることもあります。

そのとき、

  • 何を優先して判断するのか
  • どこまでを標準とするのか
  • どこからを例外とするのか

判断基準が共有されていれば、担当者が替わっても対応がぶれにくくなります。

委託できるものと、委託できないもの

教育DXでは多くの業務を外部へ委託しています。

  • ヘルプデスク
  • ICT支援員
  • システム保守
  • ネットワーク運用
  • 研修支援

こうした業務は専門家と協力することで効率的に進められます。

一方で、

  • 何を優先するのか
  • どこまで標準化するのか
  • どのような教育を目指すのか

という判断は委託できません。

これは技術の問題ではなく、教育の問題だからです。

だからこそ、教育委員会自身が設計思想を持つ必要があります。

本当に必要なのは「技術力」ではなく「設計力」

教育DXの課題として語られるのは、技術の話であることが少なくありません。

しかし現場で起きている課題を見てみると、

  • 役割が曖昧
  • 学校ごとに運用が異なる
  • 判断基準が共有されていない
  • 例外対応が積み重なっている

といったものが多くあります。

これらは新しいシステムを導入しても解決しません。

必要なのは、

  • 目的を整理する力
  • 優先順位を決める力
  • 関係者をつなぐ力
  • 合意形成する力

つまり、

「設計力」

です。

設計思想を形にし、関係者と共有していく力が求められているのではないでしょうか。

設計思想が共有されている組織は強い

教育DXは一度整備したら終わりではありません。

担当者は替わります。
システムは更新されます。
事業者も変わるかもしれません。

それでも、

「なぜそうしているのか」

が共有されていれば、方向性はぶれません。

システムが変わっても。
担当者が変わっても。
事業者が変わっても。

判断の軸が残ります。

教育DXを支えているのはシステムそのものではなく、その背景にある考え方なのではないかと思います。

おわりに

教育DXで本当に重要なのは、

  • 何を導入するか

だけではありません。

  • なぜ導入するのか
  • 何を実現したいのか
  • どのような考え方で運用するのか

そうした設計思想を共有し続けることです。

  • ベンダーと協力する
  • ICT支援員と協力する
  • 学校と協力する

そのためにも、教育委員会自身が持つべき考え方を整理してそれらを含めて共有しておくことが重要ではないでしょうか。

🌱 読者への問い

もし説明が難しい項目があるなら、必要なのは新しいシステムではなく、設計思想を共有する仕組みかもしれません。

教育DXを支えるのは、システムそのものではなく、その背景にある考え方です。

まずは、

  1. 「なぜ導入したのか」
  2. 「なぜその運用なのか」
  3. 「何を優先しているのか」

を言葉にして残すところから始めてみてはいかがでしょうか。

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投稿者プロフィール

大江 香織
大江 香織
株式会社ハイパーブレインの常務取締役です。
教育情報化コーディネータ1級
愛知教育大学非常勤講師です。専門はICT支援員の研究です。