教育振興基本計画5

皆さんこんにちは。

令和5年6月、新たな教育振興基本計画が閣議決定されました。

そもそも教育振興基本計画とは、「教育基本法(平成18年法律第120号)に示された理念の実現と、我が国の教育振興に関する施策の総合的・計画的な推進を図るため、同法第17条第1項に基づき政府として策定する計画です。」と説明にある通り、政府が教育をどのようにしていくか、という施策のもとになるものです。

特に行政職の皆様はしっかりコンセプトや計画を確認して、ご自分の自治体の施策にご活用いただければと思います。なぜなら、予算が通りやすいからです。自治体独自の施策を実施しようとしたときに、「教育振興基本計画のこの部分に則っています」という説明は大変有効ではないでしょうか。

本文のボリュームも多く、新しい言葉も次々出てきますが、ゆっくりご一緒に確認していきましょう。

Ⅱ.今後の教育政策に関する基本的な方針

(2)日本社会に根差したウェルビーイングの向上

今回の計画の基本的な方針の1つに「ウェルビーイング」の概念があります。カタカナのまま採用されているということは、今までの日本の概念であまりしっくりする言葉がなかったと考えられます。計画では「ウェルビーイングの実現とは、多様な個人それぞれが幸せや生きがいを感じるとともに、地域や社会が幸せや豊かさを感じられるものとなること」とあります。

多様な個人がそれぞれ幸せや生きがいを感じられる、というところが重視されていそうです。

個人がそれぞれ幸せや生きがいを感じられると、そこからさらに地域や社会が幸せや豊かさを感じられる、という風にも読み取れますね。

多くの人は、個人が幸せを感じるために「あいつが不幸になれ」とか「自分だけが得をしたい。他の全員損をしろ」とか思わないだろう、ということが前提になっています。人間は社会的動物ですから、一部例外を除いて、個人が幸せに思って生きていると、周りも幸せになっていくだろう、という考え方が前提ですね。

その「個人」が、今まで認識されていなかった解像度で重要視されていくということになります。

欧米での「ウェルビーイング」と、日本を含むアジアでの「ウェルビーイング」は少し違うようだ、ということが計画には書かれています。何もかも欧米一辺倒ではなく、双方が歩み寄ったより良い考え方が世界中に広まっていくといいですね。

ということで、日本社会に根差したウェルビーイングの要素が計画には11個挙げられています。見てみましょう。

  • 「幸福感(現在と将来、自分と周りの他者)」
  • 「学校や地域でのつながり」
  • 「協働性」
  • 「利他性」
  • 「多様性への理解」
  • 「サポートを受けられる環境」
  • 「社会貢献意識」
  • 「自己肯定感」
  • 「自己実現(達成感、キャリア意識など)」
  • 「心身の健康」
  • 「安全・安心な環境」

これらを「教育を通じて向上」させていくことが重要である、と述べられています。向上したかどうかエビデンスの収集も必要だと書かれています。

私が注目したのは、「なお、協調的幸福については、「同調圧力」につながるような組織への帰属を前提とした閉じた協調ではなく、他者とのつながりやかかわりの中で共創する基盤としての協調という考え方が重要であるとともに、物事を前向きに捉えていく姿勢も重要である。」と注釈が述べられていることです。

私が育った場所では、酷い同調圧力(たとえば、男子は丸刈りにするべきだ、みたいなもの)があったのですが、それが同調圧力だと気づいたのは、外に出たこと、適切な教育を受けたことによるものが大きいと感じています。教育の力は大きいと、私はとても思っています。

さらに「子供たちのウェルビーイングを高めるためには、教師のウェルビーイングを確保することが必要」ということも述べられており、現在の課題を計画では認識しているということだな、と思いました。

また、「ウェルビーイングが実現される社会は、子供から大人まで一人一人が担い手となって創っていくものである。」とあり、教育を受ける子どもたち、学校最大のステークホルダーのことが計画にも少しずつ取り上げられるようになりました。

第2期・第3期計画で取り上げられてきたた「自立」、「協働」、「創造」について発展的に継承し、個人と社会のウェルビーイングの実現を目指すことが重要である、と整合性がとられています。

来週は教育振興基本計画の続き、(5つの基本的な方針)について読んでいきます。

投稿者プロフィール

大江 香織
大江 香織
株式会社ハイパーブレインの取締役教育DX推進部長 広報室長です。
教育情報化コーディネータ1級
愛知教育大学非常勤講師です。専門はICT支援員の研究です。